エボラウイルス性疾患〜危険だからこそ冷静に対応すべき疾患
最近のアフリカの高い経済成長率による市場拡大や鉱物資源獲得を背景に、西アフリカ方面に行かれるビジネスパーソンにとって、今年2月ギニアで出現した「エボラウィルス性疾患(EVD)」の感染拡大動向の報道は大変気がかりな内容と思う。
今回の感染拡大は、死者をきれいにして弔うと亡くなった人が見守ってくれるという信仰がある地域において、遺体に触れた家族や集まった人に感染、続いて不充分な医療設備における治療を通じ医療従事者に感染を広め、さらにその医療従事者の移動によって拡大したと言われている。
北米でも感染者が発生したことからも、活発になった国境を越えての人の移動という点も今回は見逃せない要因だ。
「エボラウィルス性疾患(EVD)」はコンゴ(当時はザイール)のエボラ川近くで出現したフィロウィルスに属するウィルス性出血熱である。強い感染力のため、数個のウィルス粒子が侵入しただけでも増殖する。罹患した人の体液、血液、おそらくは飛沫からも容易に感染する。感染後しばらくしてから産生される抗体よりもウィルスの増殖速度が速いため全身の主要な臓器を犯し命を奪う。さらに奇跡的に助かる場合であっても、長期間(最長61日間)ウィルスが体液から排出されるという特徴を持つ疾患である。
先週8月6日(水)のWHOの発表によると、シエラレオーネをはじめリベリア、ギニア、ナイジェリアで合わせて1,779症例のうち死亡961例で、今回のEVDが死亡率の高いザイール株のウイルスのため、死亡者数は今後さらに増えると予測している。
当院も「海外渡航外来」において海外出張されるビジネスパーソンへの様々な予防接種や相談をおこなっており、注意を促している。というのも、「エボラウィルス性疾患」に関しては予防接種のみならず治療法も確定されていないためだ。特定感染症指定医療機関で隔離された状態のまま点滴をしながらひたすら回復を待つしかない。
以前感染したサルの血清を用いてエボラウイルス性疾患の治療に成功したという映画があったが、現実にはサルが保有しているかもしれない未知の病原体の感染の危険があり、映画のようにはいかないことが残念だ。
日本への感染は拡大しにくいと思うが、マラリア、腸チフス、コレラ、細菌性赤痢などEVDと似たような症状を初期に生じる疾患が多い。そのため、冷静な対応が重要だ。万が一ひどい倦怠感や頭痛、筋肉痛、咽頭痛がみられた場合でもいたずらにEVDの疑いなどと風評せず、慌てずに専門病棟を持つ特定感染症指定医療機関(都立墨東病院、荏原病院)においてきちんとした鑑別診断を受けて欲しい。
伊藤院長 2014.8.13(水)記